日本は、間接材購買の”後進国”。SAPジャパン・佐藤氏が語る「コスト意識を高く持てる企業の条件」とは

基幹システム(ERP)市場で世界一のシェアを誇る「SAP」。年間売上は3兆円を越え(2019年度末現在)、経費精算システム「Concur」や間接材購買ソリューション「SAP Ariba」を擁する、まさに業界を牽引する総合ソフトウェア企業です。

世界を股にかけてビジネスを展開する同社の目から、日本市場はどのように映っているのでしょうか。

SAPジャパン・バイスプレジデントの佐藤氏は、「日本は特に間接材のコスト意識が低い」と言います。

今回は佐藤氏と、間接費市場を改革するべく、支出管理ツールを提供する株式会社Leaner Technologiesの大平・田中が、日本企業の間接材調達のリアルと、これから目指すべき理想の未来について語ります。

佐藤 恭平 ■SAPジャパン株式会社 

SAPジャパン株式会社(以下、SAP)バイスプレジデント、調達・購買ネットワーク事業本部長

1998年SAPに新卒入社後、ボストンコンサルティンググループ(BCG)、マイクロソフトを経て、
SAP再入社。ソフトウェア企業での開発、事業企画及び営業リードとしての経験と戦略コンサルタントのバックグラウンドを生かし、最先端のデジタルと経営に関するさまざまな企業の様々な先進的取り組みを主導

 

グローバルから見た、日本企業の現在地ー多くの企業が抱える課題

Leaner Technologies田中 (以下田中) : SAPではコスト削減のために、どのようなシステムを提供していらっしゃるのでしょうか。

SAP 佐藤(以下佐藤) : 現在SAPは、グローバルで売上約3兆円を超え、ドイツで最も時価総額の大きな会社となりました。多くの企業様のニーズに併せて幅広くシステムを提供する中、コスト削減・支出管理の分野ではSAP Aribaというシステムを提供しています。

「SAP Ariba」は、サプライヤーと企業のデータ連携を推進しながら支出を可視化することができるシステムです。近年様々なサプライヤー様との連携が進み、世界で約300万社、日本市場でみても約4.5万社と繋がる大きなプラットフォームとなっているのが強みです。

田中:“世界中”の支出管理を扱っているのですね。やはり、日本と世界では支出管理の現状は異なるのでしょうか。

佐藤:はい。日本は、支出管理の市場自体に大きな課題があります。Aribaシステム上での全取引額は300兆円なのですが、その中に占める日本の取引額はまだまだ小さいのが現状です。これは既に支出管理の徹底が当たり前のこととして普及しているアメリカ・ヨーロッパ、導入が加速しているオーストラリアなどのアジアパシフィックとは、対照的な結果です。日本は世界3位のGDPを有しており、まだまだ支出管理システムを導入する余地が大いにあると捉えています。

Leaner Technologies 大平(以下大平) : 支出管理システムの導入に際して、SAPさんが主なターゲットとしているのは、“ビッグエンタープライズ”と言われる大手企業でしょうか。

佐藤:  そうですね。事業規模の大きい企業は、間接費総額も大きいのが通例です。取引拠点も世界に跨っているので、その分コストや支出に無駄(ペイン)が多く、改善ポイントが多いと予想されます。

大平: 確かに、ペインの大きさは大手企業様の方が大きいというのはわかります。Leanerのお客様でも、会社の規模に限らず自社の間接費の全体把握に課題を感じている方々が多くいらっしゃいます。

間接費を把握しきれていないという状態は、企業規模に関わらず日本全体で起きている状態なのでしょうね。

 

日本で、間接費のコスト感度が高まらない最大の理由

佐藤: 我々が担当させていただいている企業様の中にも、「何に」「どれくらい」支出があるのかをきちんと把握できていないという方は少なくありません。

特に、製品のクオリティーに直結する製造原価などの直接材は高い水準で管理しているものの、間接材については皆無という方も多いですね。

田中: なぜ、間接材の見直しが行われていない状況が起こっていると思われますか?

佐藤: 元々の日本の産業構造に理由があると思います。

従来日本では製造業が強く、「価値の高い製品を、できるだけ安く生産する」ということに長けている企業は多いです。より目に見える製造原価に力を入れ、あまり見えない間接材をないがしろにしてきた結果なのではないでしょうか。

  

大平: 我々がお手伝いしているお客様にも、間接材を含めた購買を一括で管理する、直接の担当がいないというケースがしばしばあります。担当者がいないことで、間接材コストについて着手されていないという事態は当然多発しますよね。

佐藤: 一方でCPO(Chief Procurement Officer)など、支出の適正化を担う明確な役員や担当部署が設けられている企業がグローバルには多いですね。そういった役職の人にとって間接材領域は、変革することで大きなインパクトを出し、自信のキャリアアップに繋げる絶好の場所と考えている人は多いのではないでしょうか。

  

間接材への意識が高い企業は「経営陣のコスト意識」が高い

田中: 一方で、 コスト意識が高く、間接費管理にも積極的に取り組んでいる企業もあります。何が条件としてあるとお考えでしょうか?

佐藤: 間接費への取り組みが積極的な企業の共通点として、「経営陣のコスト意識の高さ」が挙げられます。経営陣が過去の業務経験のなかで、コスト管理をきちんとしていなかったことにより問題が生じたことがあるなどして痛い目を見ていると、コスト意識が高いです。

経営陣の監視下で間接費管理を行っていると必然的に、プロジェクトの優先度が高くなる印象がありますね。

大平: わかります。しかし経営層に強い原体験がなくとも、ぜひ間接費の管理に注力して欲しいです。そのような想いで、Leaner Technologiesでは担当者と間接費管理や削減のアクションを行った後、マネジメント層への報告のサポートも取り組もうとしています。

佐藤:担当者からのサポートも非常に大事ですね。経営陣への認知が組織の下から進めば、全社でのコスト削減意識が変わっていきますね。やはり、経営陣から担当者まで、全社でのコスト意識の向上が大切なのではないでしょうか。

  

大平 裕介 ■株式会社Leaner Technologies 代表取締役 

A.T.Kearney 株式会社にて、主にコスト改革(Strategic Sourcing・BPR)、事業戦略策定などに従事し、2018年に当時最速でアソシエイトに就任。2019年2月、株式会社Leaner Technologiesを創業し、代表取締役CEOに就任。

 

日本でも感じ始めた、2つのトレンド

佐藤: 日本でも、間接コストに対する意識は少しずつ変わり始めているように思います。背景には、大きく2つの理由があると考えています。1つは、企業のグローバル化

田中: 具体的にどのような理由があるのでしょうか。

佐藤:多くの日本企業が海外に事業展開するようになり、世界規模で「いかにガバナンスを効かせるか」が重大な経営課題になりました。

各国で現地のサプライヤーと取引をし調達プロセスを整える際、言語の壁や日本では考えられないようなトラブルが起こる可能性があり、適正価格での調達を管理するのは想像以上に難しいことです。

このような状況下でリスクを排除し、円滑かつ適正な調達活動を行おうという動きはすでに起こっているでしょう。

田中:もう1つの理由を教えてください。

佐藤:2つ目は、AIやRPAといったテクノロジーを用いた自動化・効率化の流れです。

これまでは、「契約書管理や経費処理は紙で行う」「見積書は郵便やFAXでやりとりする」というのが当たり前でした。しかし、テクノロジーを導入する動きが急速に進み、いまや多くの企業で書類は電子化されています。その結果、「電子化されたデータをいかに活用するか」「テクノロジーを前提にいかに業務設計するか」といったことが重要になってきています。

また、人力では難しい集計・分析業務が可能になったりと、調達担当者の業務はより高度化してきているのではないでしょうか。

今後は、テクノロジーを駆使し、適正な価格・品質の資材を調達することの重要性がさらに高まるでしょう。また、これらを実現できる人材はたいへん希少なので、これからますます求められていくはずです。

 

「バックオフィスの貢献に光を当てたい」。両者が描く、間接材調達における日本の未来

田中: 2つめの点は、Leanerでも意識しているポイントになります。Leanerとしてお客様に届けたい価値は、単なる「コスト削減」ではありません。

もちろん、はじめは自社の支出の見える化や、削減余地の大きいサプライヤを特定することで「コスト削減」という分かりやすい価値を届けるつもりです。しかし我々が最終的に目指しているのは、売上を上げた営業パーソンと同じようにコストを減らした担当者も評価される、そのような世の中です。

大平:私も、自分が携わったコスト削減プロジェクトで同じようなことを思ったことがあります。

例えば、営業利益率5%の会社だと、売上を1億円作ることと、コストを500万円減らすことの利益インパクトは同じですよね。ですが、実際にコストを削減した担当者は評価されず、売上を上げた営業パーソンだけが評価されるといった会社はいまだに多いと思っています。

会社を裏から支えているバックオフィス部門の方々にも光が当たり、モチベーション高く働ける、そのような世界を実現したいですね。

佐藤:仲良くしていただいている上場企業の代表の方も、同じことを仰っていました。我々SAPとしても、まずは購買担当が付加価値の高い仕事に注力すること、そして経営陣がその業務に光を当てて、きちんと評価すること。そのためにも、我々はお客様の業務をシステムでサポートし、付加価値の高いアクションに集中できる環境を整える。

そうして、経営活動に対してプラスの活動を行った方が適切に評価される、良い世界をともに作っていきたいですね。