2021.07.19

営業利益とは?売上純利益や経常利益・純利益との違い、利益率の高い企業を具体的な事例も紹介

営業利益とは?売上純利益や経常利益・純利益との違い、利益率の高い企業を具体的な事例も紹介

皆さんは、営業利益を正しく理解できていますか?「営業利益の意味は理解しているが、実際なぜ有用なのかがわからない」という方も多いのではないでしょうか?

一般的に、企業の財務状態は売上や利益を見ることで判断します。しかし、企業の利益には、営業利益や経常利益・純利益など様々な指標があり、それぞれの”利益”から解釈できる経営状態も異なります。

今回の記事では、営業利益を中心に、日本企業の利益率の現状、キャッシュコンバージョンサイクルや企業の改善事例について紹介します。

TEXT BY Leaner Magazine編集部

    

1. 営業利益とは?

企業の経営状況を財政面から分析する際には、売上(トップライン)とコスト、そして利益に注目することが一般的です。

この時、企業の総売上は1つの数字に定まりますが、コストと利益には様々な解釈の余地があります。

売上 ー コスト = 利益 となることは、間違いありません。しかし、どんなコストを売上から差し引くかによって出てくる利益は異なります。

企業財務における利益には、売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期純利益、(当期)純利益などが存在します。これら沢山ある企業の利益の中で、今回の記事では、特に「営業利益」にフォーカスして紹介していきます。

営業利益とは、企業の収益性を測定する指標の1つであり、企業の総売上から売上原価や営業費用(販売費及び一般管理費)等を差し引いて計算されるものです。

営業利益は企業本来の営業活動から得た利益であり、営業利益が大きい場合、本業の営業活動における企業収益力が高いと言えます。

売上原価とは、商品を仕入れるとき、もしくは製造するときにかかる費用を指しています。売上原価は業種によって内容が変化します。例えば、製造業と小売業を比べた場合、小売業では人件費を含めませんが、製造業の場合は、生産に直接関わった人件費も売上原価に含めます。

また、企業の総売上から売上原価のみを差し引いたものが、売上総利益です。この指標は、商品やサービスそのものがどれくらい売れて、会社の業績に貢献できているのかを表す数値となります。

次の章では、経常利益や純利益の概要や、営業利益との違いについて紹介します。

     

2. 経常利益・純利益とは?

経常利益とは、企業が行っているすべての事業を通して得た利益のことで、事業を多角化している企業の場合は本業以外の事業で得た利益も含みます。また、企業の投資活動による利益、たとえば有価証券の売却や金利などで得た利益、も含みます。

ただし経常利益には、事業として継続的ではない損益は含まれません。例えば、企業が所有している土地を売却して得た利益は、一過性のものであるため経常利益からは除かれます。

つまり、経常利益は経常的な企業活動で得た利益のみが反映された数字であり、企業の動向を確認する際の重要なチェック指標のひとつです。

営業利益との違いは、本業以外の事業の利益を含むか含まないかが大きなポイントになります。営業利益が赤字であるにもかかわらず経常利益が黒字であるような場合は、資産運用が順調である一方、本業のビジネスではコストがかさんでいたり、売上が思うように伸びていない場合があります。

反対に、営業利益が黒字であるにもかかわらず経常利益が赤字の場合は、本業はうまくいっているものの、資産運用がうまくいっていなかったり、借入金の利息がかさんでいたりすることが考えられます。こうした企業の場合は、自社の資本構成を見直し、銀行からの借入を減らしたり、社債の発行を控えるなどの対策をおこなうと良いでしょう。

     

3. 純利益との違いは?

純利益は、経常利益と特別利益の合計から、特別損失と法人税を差し引いたものです。

純利益には、企業活動の中で生じた一過性の損益も含まれているため、一時的な資産の売却や保有する有価証券の簿価の低下のせいで黒字もしくは赤字になることもあり得えます。

たとえば、純利益が赤字であるにもかかわらず営業利益等が黒字であるような場合は、一時的に発生したビジネスまたは投資上の損失によって、会社全体の利益が圧縮されているものの、企業としては堅調な事業運営ができていると判断できます。

しかし、純利益が黒字であるにもかかわらず営業利益が赤字であるような場合は、一時的な収益のおかげで利益を得られているものの、事業運営自体はうまくいっていない可能性があります。

このように、企業の”収益力”を判断したい場合は、営業利益や経常利益が適しています。一方で純利益は、収益性を競合他社と比較したり、配当金の指標として用いられることが多いです。

特に上場企業の株主は、純利益に注目することになります。一般的に株主への配当金は純利益の大きさに左右されるので、純利益が大きくなるほど、その企業の配当金支払期待が大きくなるからです。

また、純利益を見ることで、経常利益からは読み取れない企業の状況に気付くこともできます。製造業で特別損失が計上されている場合、よくあるのは「品質管理上の問題」、たとえば製品のリコールによって利益が削られてしまったことが想定されます。

これまで、営業利益や経常利益、純利益の概要や違いについて紹介しました。次の章では、いよいよ日本の営業利益に焦点をあげながら、近年の動向について解説していきます。

    

4. 日本企業の営業利益率の動向

財務省の2018年の調査報告書によると、日本企業の営業利益率は平均4.4% となっています。

2018 年度の製造業、非製造業を見ると、非製造業では、営業利益が対前年度比で増加した一方、製造業は営業利益が対前年度比で減少したことから、全産業で見た売上高営業利益率は前年度比横ばいで推移しています。

財務省

海外の数字を参照すると、米国企業7.5%、欧州の企業が6.7%と推移しており、日本企業の営業利益率が相対的に低いことがわかります。

経済産業省の2017年通産白書によると、「価格競争に巻き込まれている」と回答した企業の割合は、日本が最も高く、ドイツや米国を大幅に上回っています。これら終わりのない価格競争の存在が、日本企業の営業利益率を押し下げている原因だと考えられます。

また、これら価格競争の要因として、過剰設備の存在と商品のコモディティ化が挙げられています。

日本においては、高度経済成長期やバブル期、まだ人件費が比較的安い中で重工業等を推進し、過剰設備投資を行った影響が一部で残っていると言えます。特に、一度立てた工場は粗利率が低下しても初期投資額が大きいため、すぐに閉鎖して新しい工場を立てるわけにはいきません。また日本の製造業の場合は、工場周辺にある2次、3次下請け企業や地域住民との関係性からも、閉鎖という経営判断はとても難しいものとなります。そのため、工場を存続させて、低い粗利率の中での操業が続いてしまっているのが現状と言えます。

そうした現状を打開するためには、営業利益をコントロールする上で必要となる指標を理解し、かつ予実管理やコスト最適化に取り組んでいくことが重要となります。

次の章では、営業利益率を管理していく上で、知っておくべき指標として、営業キャッシュフローマージンやキャッシュフローコンバージョンサイクルについて解説します。

    

5. 営業利益率をコントロールする上で押さえておくべき指標

     

a. CFM(営業キャッシュフローマージン)

営業キャッシュフローマージンとは、営業キャッシュフローを売上高で割った指標になります。営業キャッシュフローとは、商品の販売や仕入れ、経費や人件費の支払いなど企業の営業活動から生じるキャッシュの変動を示す項目です。

営業キャッシュフローマージンは、マイナスが連続するのは良くないとされています。CFM がマイナスで続くのは、営業利益に対応する現金が不足しているからです。一時的なマイナスであれば、内部留保(企業が元々持っていた利益)を使うことで耐えることができますが、業績回復の目処が立たない場合は、事業をたたむことも考える必要があります。

一方で、一時的な営業キャッシュフローマージンのマイナスは必ずしも悪いとは限りません。成長過程の企業は、売掛金の増加と、在庫を用意する必要があるため、手元に現金が少なくなり、営業キャッシュフローはマイナス傾向になることもあるからです。

キャッシュフロー・マージンの値を増やすためには、現在のキャッシュフロー・マージンの比率よりもキャッシュの回収効率が高い商品の販売、あるいは取引先への販売を増加させる必要があります。

    

b. キャッシュコンバージョンサイクル(CCC)

仕入から始まって売上による現金回収までに要する時間を示すのが CCC です。一般に CCC は短い方が望ましいとされます。何故なら、現金回収のスピードは速い方が有利だからです。キャッシュ・コンバージョン・サイクルが短ければ、資金が効率的に運用されているため、より少ない所要運転資金での経営が可能になります。

CCC は売上債権の回転期間に棚卸資産の回転期間を足し、仕入債務の回転期間を差し引くことで求められます。

キャッシュ・コンバージョン・サイクルが長ければ、商取引が行われてから、実際に現金(キャッシュ)が手元に入ってくるまでの期間が長くなります。そのため、より潤沢の運転資金を用意する必要があります。

特に製造業などの初期投資が多い事業においては、自社のCCCの現状は注視すべき項目となります。これら事業は、先に大きな設備投資を先行して行うことが多いため、キャッシュが流出してしまい、その分をどのように回転させられるかが重要となります。特に自社のキャッシュ状態を回復するまでのスピードは、経営戦略上、重要となります。

この回復のスピードを見極めるためには、先に紹介した営業キャッシュフローマージンが重要になります。

現状、ある程度の営業キャッシュフローマージンが継続して期待できるのであれば、大胆な設備投資を敢行しても、営業活動を通じて、徐々にキャッシュの状態が改善することが見込めます。

さて、この章では営業利益率に関わる指標について解説しました。次の章では具体的な改善につなげるためのアクションプランについて、予実管理やコスト削減の要点についてくわしく紹介します。

    

6. 営業利益率を高めるためには?

経営管理や財務の視点からは、予実管理の方法を見直すことが重要になります。

予実管理とは、企業活動における「予算」と「実績」を管理することです。予実管理を正しく行うことで、経営目標の進捗がより的確に把握でき、計画達成のために必要な打ち手を迅速に実行できるようになります。

また予実管理において売上実績が注目される中、多くの企業で見逃されやすいのが「コスト」の観点です。予実管理においては、売上(トップライン)を伸ばしながら、コストを適切に抑えることが重要になります。

適切なコスト体制を築くためには、調達プロセスを見直し、見積もりやサプライヤー選定の段階でコストを抑制したり、ゼロベースで予算策定を行うZBB(Zero Based Budgeting)戦略などが有効となります。

予実管理の正しい手順や詳細については、こちらをご参照ください。

予実管理とは?利益創出のための予実管理のポイントをわかりやすく解説! | Leaner Magazine|リーナーマガジン

次に、営業利益率を高めるためのコスト削減策について詳しく解説します。営業利益がマイナスになったとき、短期的に効果が出やすいのはコスト削減です。

例えば営業利益率が5%の会社は、利益1億円を創出するには20億円の売上が必要ですが、コスト削減自体で1億円の利益を生む方が、一般的にはハードルが低くなります。

この際に注目するコストとは、主に売上原価(仕入価格など販売管理費、間接材になります。

この中で、売上原価のコスト適正化が進んでいる企業は多いと言えるでしょう。なぜなら、経営管理において、売上原価は商品の製造に直接結びついており、売上総利益にすぐに直結しています。そのため企業側でもある程度コスト対策を行っているケースが多いです。

その一方で、それ以外の費目に関してコスト管理体制が十分に整備されていない企業も少なくありません。特に、販売管理費や間接材は費目が多岐に渡るため、十分なコスト対策を採用できていない企業が多いです。

販売管理費はほとんどの企業において発生しており、コスト削減効果が高い領域だと言えます。

販管費のコスト削減については、以下の記事をご参照ください。

販管費(販売管理費)を徹底解説|内訳や勘定項目、販売費や一般管理費・固定費の意味、コスト削減の事例まで | Leaner Magazine|リーナーマガジン

次に間接材について解説します。

間接材は、「企業が調達する製造原材料以外のあらゆるモノ・サービス」のことを指します。間接材は1つ1つの費目は決して大きくないのですが、企業の業種によらず、なかなか削減できていない領域でもあります。しかし、その間接材が企業のコストの10~20%を占めていることは、意外と知られていません。

そのため、間接材の調達方法や見積方法を工夫することで、コストを抑制し、営業利益の改善に繋げることが期待できます。

今間接材の内訳や内容、それぞれの費目に適した調達方法や見積における戦略等については、以下の記事をご参照ください。

間接材とは?直接材との違いや特徴、コスト削減の方法まで詳しく解説! | Leaner Magazine|リーナーマガジン

   

7. 営業利益率が高い企業の事例

    

日本電産:

日本電産は、営業利益率の高い企業として有名であり、その堅実な経営体制から学ぶものが多いです。直近21年3月期は売上高が1兆6180億円、当期利益は1219億円とコロナ禍でも手堅い経営を行っています。(有価証券報告書_日本電産

特に全世界的な半導体の供給不足によって財務的な影響を受けながらも、産業用モーターなどの営業利益率改善、全社で推し進めた固定費削減などの構造改革が寄与したことが指摘されています。

これらの成果は長年培われた、支出削減に向けたコスト意識に端を発していると言えます。長らく経営トップを務めた永守氏は、自ら買収した企業の経営に参画して徹底してPMI(買収後の組織統合)を進め、コスト削減策を実行してきたことで有名です。

日本企業では、売上(トップライン)を伸ばすことが評価されても、コスト削減に対する努力や成果に対して十分な評価がされない場合も少なくありません。そうした中で、日本電産では、経営陣が率先してコスト意識を持つことの重要性を説き、利益率改善を押し進めている点において、注目されるべき存在だといます。

    

キーエンス:

キーエンスは日本の半導体事業において、高い付加価値を持った事業を展開しています。キーエンスは収益性が高いことで有名であり、2021年3月期の営業利益率は51.4% にも登ります。(キーエンス連結経営指標

事業自体の独自性ゆえに高い営業利益率を得ていると思われていますが、同時に無駄を削った徹底したコスト体制が敷かれている点も注目です。

キーエンスでは、粗利が一定水準を満たさない事業には基本的に参入せず、また量産効果の観点から、顧客毎のカスタマイズを原則受けないなど、利益率に対して高い基準を設けている点が特徴です。

またキーエンスは、固定費を外出しするファブレス経営を行うことで固定費を抑制している点も見逃せません。ファブレス経営とは、製造や組み立ての工程・設備を自前で持たない経営体制であり、固定費の削減に大きな効果を発揮します。

但し、ファブレス経営は外部からの仕入れコストの増加やサードパーティの管理コストがデメリットとして発生します。そのため、会社組織として高いガバナンス機能を備え、精緻なサプライチェーンマネジメントを行うことで、現在の高い営業利益率が達成されていると言えるでしょう。

    

スバル:

スバルは、2017年に日産自動車、スズキなどとともに完成検査不正を起こしてしまい、経営体制の刷新や巨額のリコール費用を計上してしまいました。しかしその後、驚異の回復力を見せ、コロナ以前はトヨタ自動車に次ぐ、営業利益率を誇っていたことで有名です。(スバル財務ハイライト

このスバルの営業利益率の高さは、事業領域を絞ると共に、生産ラインを可能な限り集約してコスト体制を改善した点が大きいです。

まず近年のスバルの特徴としては、それまで伝統的に強かった軽自動車市場から身を引き、ワゴンやその派生車種(セダン)に経営資源を集中投下しています。レッドオーシャンである軽自動車市場と距離を置き、独自領域で勝負したことで、とりわけ欧州・北米市場で安定した営業利益を確保することができています。

また一部車種を除くと、スバルでは、生産ラインをSGP(スバル・グローバル・プラットフォーム)に集約することで、部品調達作業が整理され、全体的な業務コストが押さえられている点も多くの企業が見習いたいポイントだと言えます。

    

8. 終わりに

営業利益は、多くの事業部門が常に追っている数字です。

しかし、経常利益や純利益との違いについて正しく理解できていない人も少なくありません。売上から差し引くコストも種類によって、利益に対する解釈は変わります。

ぜひ、この記事が皆さんのお役に立てれば幸いです。

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