2021.03.02

コーポレート・ガバナンスとは?企業での強化方法、成功・失敗事例を徹底解説

コーポレート・ガバナンスとは?企業での強化方法、成功・失敗事例を徹底解説

皆さんの会社のガバナンスは正常に機能していますか?

近年、多方面の企業で、企業統治の失敗による不祥事が相次ぎ、自社のガバナンス体制も脆弱化していないか心配の方も多いのではないでしょうか?

本記事では、コーポレートガバナンスを強化するためのポイントを、企業の不祥事・失敗例の原因分析や、成功例から学べるコツといった観点で紹介します。

TEXT BY Leaner Magazine編集部

コーポレート・ガバナンスとは?

コーポレート・ガバナンスの「ガバナンス」は、英語では“governance”と訳され、統治・支配といった意味を指します。

コーポレート・ガバナンスは、日本語で「企業統治」を意味し、「健全な企業経営を達成するために、企業自身で経営を管理監督する仕組み」のことを指します。

ここでいう健全な企業経営とは、「法令を遵守している」「不祥事が起こらない」「男女の機会が平等である」「競争力や収益力がある」といった指標に基づいて評価されます。健全な経営体質を確立することで、経営が安定し、株主・投資家からの企業価値の評価を高めることができます。

近年、注目が集まっているESG投資においても、企業のガバナンス機能は重要な評価項目になっています。ESG投資とは、企業への投資に際してEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(統治)それぞれの要素を総合的に評価して、投資行動を行うことを指しています。

加えて企業・法人のガバナンス体制の良し悪しは、消費者の購買活動にも影響を及ぼすようになっており、その重要性はますます高まっています。

 

コーポレート・ガバナンス失敗例から学ぶ強化のコツ

近年増えている、コーポレート・ガバナンスが正常に機能しないことによる企業の不祥事。本記事では4社の例を挙げて、問題が起こってしまった原因を分析します。

 

架空発注:博報堂DYメディアパートナーズ

博報堂DYメディアパートナーズ(東京都・港区)の元社員が、テレビCM制作業務を繰り返し架空発注し、外注費と計上されていた多額のお金を同社からだまし取ったとして2020年に逮捕される事件がありました。

博報堂DY系 元社員ら再逮捕 架空発注で7500万円詐取容疑

このような事件を未然に防ぐには、企業の購買活動における不正を防止するガバナンス体制の構築が必要だと考えられます。

具体的な対策としては、たとえば、「取引先からの製品やサービスの提供を実際に受けたかどうかを確認する制度を作る」「取引先について、会社の内容や担当社員との関係性、支払先口座が個人口座でないかといったことを事前に調べる」などの方法があります。

 

不正会計:株式会社東芝

株式会社東芝(東京都・港区)では、2015年7月20日、第三者委員会の報告書により、経営幹部の関与による2009年3月期から2014年4-12月期で、計1518億円の利益を水増しする粉飾決算を行っていたことが報告されました。

東芝-Wikipedia

2020年にも、同社子会社での不正会計が報告されており、企業統治の機能が正常に働いていたのかどうか疑問視されています。こうした事態を回避するためには、企業全体の意識の改革や、利害関係のない社外取締役を設置し、経営判断にもチェックの目を入れる体制を構築することが必要と言えるでしょう。

 

施工不備:株式会社レオパレス21

株式会社レオパレス21(東京都・中野区)では、2018年から2019年にかけて施工不備が多数の建築物について相次いで見つかるという出来事が発生しました。

当社施工物件における施工不備問題の対応について

原因は、施工不備をも厭わない企業風土に始まり、コンプライアンス意識やリスク管理体制が充分に育まれていなかったことが挙げられます。

2021年2月現在では、第三者委員会を交えて策定された再発防止策が実行されており、同社の公式ホームページにて、その進捗状況を見ることができます。

 

勤怠記録の書き換え:ワタミ株式会社

ワタミ株式会社(東京都・大田区)では、2020年に社員への未払い残業代があったとして労働基準監督署から是正勧告を受けるという問題が発生しました。

ワタミ、出退勤記録を上司が書き換え 休日出勤を隠蔽か

そもそもの残業時間自体について、当該社員は「過労死ライン」を大きく上回る175時間の残業をしたと主張していました。

さらに、社員の上司が当該社員がシステムに打ち込んだ出退勤記録を書き換えていたことも判明しました。これには、当該社員の休日出勤を隠ぺいする目的があったのでは、と考えられています。

このような事態が起こった原因の1つとして、勤怠管理が自己申告制であり、書き換えられる可能性のあるシステムであったことが挙げられます。

またワタミ株式会社では、2008年にも社員の過労自殺が労災認定されるなど、以前から労働環境が問題とされていました。幾度となく労働環境が問題となるのには、全社における、はたらき方に対する意識の欠如があるのかもしれません。

 

成功例から学ぶコーポレート・ガバナンス強化のための取り組み

コーポレート・ガバナンス強化のために具体的な取り組み方法

コーポレート・ガバナンスを強化するためには、具体的にどのような施策があるのか紹介します。

 

A.ガバナンスの機能を効かせるツールを活用する

社内管理の仕組みを決めたところで、その仕組みが社内で徹底されなければガバナンスの機能を効かせることはできません。

そのためにも、適切なツールを導入し、適切な評価体制の構築とインセンティブの設計を行い「やらざるを得ないもの」とすることで、全社での取り組みとしてのコーポレート・ガバナンスの強化を推進することができます。

具体的にどのようなツールを用いることができるのか、紹介します。

勤怠管理システムを導入する

勤怠管理システムを導入することにより、従業員の過重労働や働き方改革関連法の違反を未然に防止できます。最近はクラウド型のシステムも多く、テレワークになっても問題なく労務管理を行うことができます。有名なサービスとしては、株式会社ヒューマンテクノロジーズの「勤怠管理システムKING OF TIME」や株式会社Donutsによる「ジョブカン勤怠管理」などがあります。

調達や支払プロセスをデジタル化する

調達や支払プロセスがシステム化されることで、「誰が」「何に」「いくら」発注しているかが分かり、不正取引や架空発注を未然に防ぐことができます。また、見積もりの過程でサプライヤーを選定する際、見積履歴をシステムに残しておくことで、サプライヤー選定の透明性が向上します。

ワークフローシステムを導入する

ワークフローを管理するシステムを導入することで、誰がどの仕事をしているのかや、業務ごとの責任の所在が明確になります。どの承認プロセスにおいて不正が起こったか明確になるため、原因究明がしやすくなります。有名なサービスとしては、株式会社エイトレッドが出しているX-pointやrakumo株式会社が提供しているrakumo ワークフローなどがあります。

 

B.社外取締役や監査役を設定する

社内の一部の人間だけの意見で経営が進んでいく企業は、決して健全なガバナンス体制を築いているとは言えません。第三者のニュートラルな意見を取り入れることで、風通しの良い組織を構築することができます。社外取締役や監査役は、このような第三者として機能します。

 

C.コーポレート・ガバナンスの強化に向けた取り組みを社内で周知させる

自社がどのようにコーポレート・ガバナンスの強化に対して取り組んでいるのかを知ることで、もし従業員がコーポレート・ガバナンス強化のためのシステム導入や制度の変化に抵抗感があったとしても、理解を示す手助けとなります。

 

D.コーポレート・ガバナンス強化の取り組みを社外にも広報する

コーポレート・ガバナンスの強化に取り組んでいる企業は、株主や取引先、顧客からの信頼を得ることができます。時として、コーポレート・ガバナンスの向上は、企業ブランドを大きく高めることにも繋がります。

企業の公式ホームページでガバナンス体制の強化に向けた具体的な施策を一般公開すると良いでしょう。外部からの視線があると、社内でも使命感が生まれ、取り組みが進みやすくなる可能性が高まります。

 

コーポレート・ガバナンス強化に成功した企業の取り組み例

次に、実際にコーポレート・ガバナンス強化に成功している企業の取り組みを紹介します。

1.日本産業界における、コーポレート・ガバナンスの先進事例:花王株式会社

花王株式会社(以下、花王とする)は、2017年度の「コーポレート・ガバナンス・オブ・ザ・イヤー」にて、最優秀賞を表すGrand Prize Companyに選出されました。

受賞理由となった取り組みは、主に以下の2つです。

  • ガバナンスに対して早期から取り組みながら年々進化していること
  • 取締役会を有効に機能させるため、取締役会議長を社外取締役から選出し、社外取締役の数を増やしていること

授賞式では審査委員長は以下のように述べています。

審査委員長 斉藤惇氏:「花王株式会社は、形式的にもガバナンスに早く取り組み、継続してきた企業です。守りのガバナンスでは、自己に厳しい姿勢を取締役会も含めて社内に徹底し、内部統制では形だけでなく、運用にも重点を置いています。また攻めのガバナンスでは、澤田社長は取締役会を夢の実現の場であり、社外取締役との議論をエンジョイしていると言います。取締役会自体が機能している素晴らしい例であり、高いステージに進んでいると思います。日本の産業界における、ガバナンスのリーダー、手本となる企業として、今年のGrand Prize Company(大賞)に選定しました」

引用元:https://www.jacd.jp/news/cgoy/180206_post-179.html

花王のホームページには、コーポレート・ガバナンスについての取り組みが公開されています。コーポレートガバナンスについての実施報告書や社外役員の独立性に関する基準、税務方針などの資料が掲載されているので、参考にしてみると良いかもしれません。

 

2.コーポレートガバナンスの基本を実践しているモデル企業:HOYA株式会社

HOYA株式会社(以下、HOYAとする)は、2016年度の「コーポレート・ガバナンス・オブ・ザ・イヤー」にてGrand Prize Companyに選出されました。

審査委員長 斉藤惇氏:「コーポレートガバナンス・コードの適用も一年が経ち、形式を整えることは当然として、現実にどう実行しているか内容が充実しているかを審査において重視しました。伝統的な企業であっても、パターンのフォローだけではなく、それぞれに工夫を重ね、実質的であることが素晴らしいと思いました。Grand Prizeに選ばれたHOYA株式会社は、コーポレートガバナンスの基本の形を見事に実践しているモデル企業です。ぜひ参考にしていただきたく思います。」

引用元:https://www.jacd.jp/news/cgoy/170130_post-173.html

HOYAのホームページによると、「経営執行機能を担う執行役と、経営監督機能を担う取締役会を完全に分離すること」また「取締役会の管理下に、構成員の過半数が社外取締役であるよう委員会を設置すること」などにより、経営の執行と経営の監督をより明確に分けた体制を取ることを可能にしています。このことは、経営性の効率性の確保ならびに経営の健全性・透明性の向上に繋がります。

 

3.役割を明確化することで体制を整備し、ガバナンスを強化している企業:パナソニック株式会社

パナソニック株式会社(以下、Panasonicとする)は、ホームページによると、コーポレート・ガバナンスを重要な基盤活動であると捉えています。グループ全体に関わる重要な業務執行を決定し、取締役の職務の執行を監督する取締役会と、取締役会から独立し、取締役会の職務の執行を監査する監査役・監査役会からなる監査役制度を設置し、コーポレート・ガバナンス体制の強化を図っています。

また、グループの経営に関する重要な事項や法令等により開示が義務付けられている事項は、各部門からCFO(Chief Financial Officer)の監督のもと情報取り扱い部門に対して適宜正確な報告がなされる仕組みになっています。このように、情報開示についての内部統制の仕組みも確立されています。

 

ガバナンス強化のための施策から得られるメリット

ガバナンス強化のために行った施策は、ガバナンス強化以外の面でも経営管理に大きく役立ちます。主なメリットを2つ紹介します。

1.システム導入による業務生産性の向上やコストダウン

ガバナンスの強化のために導入したシステムにより、作業の手間が減少し、業務効率化に繋がることもあります。業務効率化を受けて要員計画を見直すことで、人件費等の抑制効果も期待できます。

2.情報の一元化による顧客満足度の増加

従来は“実店舗の窓口と電話窓口”というようにバラバラで管理されていた顧客情報が、一元管理されるようになります。このことは個人情報保護のレベルを高め、情報漏洩のリスクを軽減することに繋がります。また、顧客情報・コンテンツのスムーズな共有によってカスタマーサービスを効率化し、顧客満足度の増加を図ることもできます。

 

コーポレートガバナンスを見直そう

コーポレートガバナンスの失敗例・成功例を見ていくことで、ガバナンス強化には多くの施策があることが分かります。

各種ツールの導入なども検討しながら、自社に今最適なガバナンス強化の方法を探してみてはいかがでしょうか。

本記事が、みなさんの会社のガバナンス強化の一助となれば幸いです。

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