2021.02.09

管理会計・財務会計とは?会計制度の役割や違いをわかりやすく解説、財務諸表の扱い方や予算策定・予実管理まで

管理会計・財務会計とは?会計制度の役割や違いをわかりやすく解説、財務諸表の扱い方や予算策定・予実管理まで

財務会計と管理会計は、企業会計において必ず抑えておくべき知識です。財務諸表や予実管理、予算策定といった概念はこれらの会計制度の上に成り立っています。特に財務諸表にあたる損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書は広く用いられています。

本記事では財務・管理会計の単語解説から、会計制度の歴史・由来、経営管理における役割について紹介します。

TEXT BY Leaner Magazine編集部

企業会計とは?

企業の経済活動には、原材料の調達や購買、製品の生産や輸送、そして販売などが含まれます。こうした経済活動で生じるお金の流れをしっかりと記録するプロセスやそれに対応する報告書・資料が、企業会計です。

企業会計は、「財務会計」と「管理会計」に分かれています。この2つの会計制度は読み手や役割に大きな違いがあります。

財務会計は、読み手として、株主や外部の機関・投資家などを想定してつくられます。普段その企業の経営に関与していない、いわゆる外部の機関や個人が読み手のほとんどとなります。

そのため、財務会計には国や地域ごとに統一された基準が設けられています。これによって、読み手の違いによる齟齬が生じづらくなるという工夫がなされています。

また、財務会計は法的な手続きに沿って行われる会計制度ということで、制度会計とも呼ばれます。さらに、企業が税務報告を行うために作成する決算報告は税務会計と呼ばれ、これも制度会計に含まれます。

一方で管理会計は、社内の経営陣や事業部門の社員、経理部などに読まれることを想定し、資料がつくられています。これらの資料は、企業の売上計画を明確化したり、利益確保のための施策を的確に打つために使われます。

主に社内向けの資料であるため、管理会計では厳密なルールがありません。その代わりに、利益を確保するまでの道筋がちゃんとわかるような資料になっているかどうかが、重要です。

次章から、「財務会計」・「管理会計」について詳しく解説します。

   

財務会計(制度会計)とは?

企業が既に株式を公開している場合、経営陣は定期的に売上や利益を記した決算を公表することが義務付けられています。よくニュース等で「OO会社が決算発表をおこなった」という報道がなされますが、その際に会社の決算として公表されている報告書は財務会計にもとづいて作成されています。

また企業には、毎年の利益に対して国から法人税が課されます。この課税は、財務会計の一部である、税務会計にもとづいた報告書を基に行われています。

それでは、財務会計にもとづいて作成される報告書とは一体何なのでしょうか。それが、以下に解説する3つの財務諸表①損益計算書(P/L)、②貸借対照表(バランスシート)、③キャッシュフロー計算書です。     

   

損益計算書(P/L)の見方

損益計算書はIncome Statement(米国)やProfit and Loss Statement(イギリス等)とも呼ばれており、日本では「P/L」という呼称も普及しています。

損益計算書を理解することで、「そのー年や四半期で、企業がどれくらい儲けたのか」を知ることができます。具体的には、収益費用利益の3点を抑えることで、損益計算書を理解できるようになります。

まず収益(Revenue)とは、企業が商品やサービスを販売して得た売上等の合計を指します。事業規模が大きい企業では、北米やアジアなど地域別の売上や事業部門ごとの売上を足し合わせて、収益を算出しています。

次に費用(Expense)とは、企業の営業活動や生産活動、研究開発にかかった金銭的なコストを合計したものになります。具体的には、売上原価や販売管理費などが挙げられます。それぞれの企業のビジネスモデルの違いに応じて、費用の中に占める各種コストの割合はかなり異なってきます。

最後に利益(Profit)とは、収益から費用を引き算したものになります。但し損益計算書では多くの種類の「利益」が記されています。具体的には「営業利益」、「経常利益」、「純利益(Net Profit)」などがあります。

損益計算書にいろいろな「利益」が登場する理由は、企業が”本業であるビジネス”を日々行うだけでなく、様々な投資活動やM&Aによる吸収合併を通じた成長戦略・生存戦略をとっているからです。

例えば営業利益は、商品・サービスの製造・販売によって得た利益を指します。また、経常利益には、企業の投資活動やファイナンス活動によって得た損益も含めれます。そして、純利益は、様々な損益から法人税等を差し引き、最終的に企業の手元に残る利益を意味しています。

   

貸借対照表(バランスシート、B/S)の見方

貸借対照表は広くバランスシート(Balance Sheet)・B/Sと呼ばれており、3つの財務諸表の中でも最も古くから使われていました。

貸借対照表は、企業の決算発表時など、ある時点での財政状態を一覧で見ることができる表の仕様となっています。1つの時点の状態を記録したものなので、写真(スナップショット)によくたとえられます。

また、貸借対照表を理解する上で大事な概念が「資産」「負債」「純資産」です。

まず「資産」とは、その企業の財産のことです。具体的には、企業が所有する土地や建物、機械設備や現預金、証券などが含まれます。これら資産は、企業が利益を生むための”もと”となります。

しかし、これらの「資産」(企業の財産)は、どのように発生したのでしょうか。何も元手がないところから資産をタダで手にいれることはできません。

この元手となるのが、「負債」「純資産」です。会社を設立したり、拡大させるためには、自己資本(自分のお金)を投入するか、銀行などの他人資本(他者のお金)を注入するかのどちらかが必要となります。

貸借対照表では、銀行からの融資や社債の発行を通じて得たお金は「負債」と呼ばれます。

そして、会社設立時から現在まで自己資本として投入されたお金の中で、自社の金庫に残っているお金は「純資産」に数えられます。例えば、新株発行によって調達したお金も「純資産」に含まれます。株式とは企業の所有権なので、新株を購入した人間や機関も、その企業の所有者の一人になるためです。

<貸借対照表>

(借方) (貸方)
資産 負債(他人資本)
純資産(自己資本)

貸借対照表では「資産」が記載される左側を『(借方)』、「負債」「純資産」が記載される右側を『(貸方)』と呼びます。

   

キャッシュフロー計算書の見方

キャッシュフロー計算書では、お金の流れを把握することができ、これは、損益計算書や貸借対照表では把握することができません。

”Cash is King”の言葉に代表されるように、企業活動において現預金を含めたお金の流れを把握することは最重要事項の1つです。どんなに会社の業績が上向いても、手元資金が枯渇していると倒産リスクが高まり、新規投資に踏み切ることもできなくなります。

自社の置かれている状況を地に足をつけて分析するためにキャッシュフロー計算書は必要不可欠です。例えば、高額な資産を購入した場合、損益計算書では、購入費用を資産耐久年数で割り算した減価償却費として計上されます。しかしキャッシュフロー計算書では購入金額の分だけ、キャッシュが減少し、実際に企業の金庫にどれくらいのお金があるのかを確認することができます。

また、キャッシュフロー計算書のもう1つの特徴は、営業活動、投資活動、財務活動それぞれのお金の出入りを分けて管理できる点です。

例えば、「営業活動によるキャッシュフロー」を売上高で割り算した指標は「キャッシュフロー・マージン」と呼ばれます。これは売上高のキャッシュ回収効率を示しており、売上を現預金の形でちゃんと回収できているかどうかがわかります。この指標が高い企業は、取引先への支払いが滞りにくく経営が安定していると判断できます。

また「投資活動によるキャッシュフロー」を見ると、その年に企業が成長に向けた資金投入をどれくらい行っているのかを把握することができます。積極的に投資を行い過ぎた場合、投資活動によるキャッシュフローが大きくマイナスに転じるので、営業活動によるキャッシュフローのプラス分を超えない範囲での調整が大切です。

最後に「財務活動によるキャッシュフロー」では、その企業の資金調達状況や借入金の返済状況を知ることができます。

例えば資金調達等に成功した場合にはプラスになり、借入金の返済分だけマイナスになります。また新たな設備投資のためのお金を借入した場合にもプラス分として算出されるので注意が必要です。

   

財務会計の歴史

現在の財務会計の原型は、中世イタリアにて作成された帳簿(複式簿記)に端を発すると言われています。

今でこそ数多の商品作物が世界中で栽培されるようになっていますが、中世ヨーロッパにおいては、地域ごとの特産品が非常に高い希少価値を持っていました。中でも、東洋の特産品である香辛料やお茶は、ヨーロッパで人気を博していました。

南アフリカを経由する海路が発見される以前、西洋と東洋を結ぶ役割を地中海と中東地域に面したイタリアが担っていました。

その際に、イタリアの商会の運営者達が自社の財政状態を把握するために付け始めたのが帳簿(複式簿記)でした。この帳簿には、出資者や融資した金融業者など、いわゆる”お金の出どころ側”(貸方)の記録と”お金の使いどころ”(借方)の記録が併記されていました。当時はイタリア語でビランティアと呼ばれ、いわゆる現在の貸借対照表(バランスシート)に相当すると言えます。

程なく大航海時代が幕開け、世界初の株式会社である「オランダ東インド株式会社」が誕生し、企業の所有者と経営陣が分かれるようになりました。さらにイギリス産業革命時には、鉄道会社など大きな固定資産を有する民間企業が徐々に増加しました。こうした企業では巨額の初期投資を実現するために、不特定多数の人間が出資できる株式会社の形態をとることが増えました。

そして経営と所有が分離するに従い、企業は株主に対して期中にどれくらい儲けたのかを明らかにする説明責任が増し、収益、費用、利益の3要素を含んだ損益計算書の原型が誕生しました。そして1929年にはイギリス会社法にて、株主総会で会社の損益計算書の作成が義務づけられるようになります。

また時を同じくして、貸借対照表や損益計算書では利益が出ているのに、実際には手元資金が枯渇してしまう企業があらわれるようになりました。これは、上記2つの財務諸表では原材料の在庫や製品が資産としてプラス計上されるが、キャッシュフローの観点では手元資金がなくなっていることを意味しているからです。

そのため貸借対照表や損益計算書を補うためのアプローチとして、キャッシュフロー計算書も徐々に認知されるようになりました。さらに現代に近づくと、米国を中心にM&Aが盛んに行われ、企業の「投資活動によるキャッシュフロー」が大きく膨れ上がるようになりました。こうした営業活動以外で生じるキャッシュフローの増加は、キャッシュフロー計算書の重要性をさらに押し上げました。

さらに「営業活動によるキャッシュフロー」から「投資活動によるキャッシュフロー」を引き算した数字は「フリー・キャッシュフロー」と呼ばれています。この数字は企業価値評価の中心となる概念として、近年、コーポレートファイナンスやM&Aにおける重要指標に位置付けられています。

    

財務会計の目的

先の章では財務会計の発展の歴史を紐解いてきましたが、その歴史の中に、財務会計に期待されている目的・役割を垣間見ることができます。

    

目的①:情報の非対称性を解消する

株式会社の形態が普及するにつれ、所有と経営の分離も進むようになりました。そうした中で財務会計は、経営に直接関与できていない利害関係者に対して、会社の財務状態や業績を客観的な基準に従って報告できる手段になっています。

また株式は上場企業の場合、日々証券取引所で売買されるようになっています。そのため、現在その企業の株式を保有していない金融機関や個人も、彼らがマーケットに参加している以上は、潜在的な利害関係者となりえます。

これらの理由から、上場企業は、その財務諸表を公開することが義務付けられています。これによって、関連する利害関係者間での情報の非対称性が解消され、不利益を被らない状態の創出が目指されています。

   

目的②:利益配分を公正に行う

財務諸表のもう1つの目的・役割は、利益配分が公正に行われる状態を保証し、調整することです。

まず企業と株主の間で、企業の利益が株式配当として適切な形で分配されるように促す役割が期待されます。企業の当期純利益は損益計算書に従って共有され、その資料を見た上で、それら利益の何%を投資に回し、そのほかを株式配当とするのかを株主総会などで議論します。

加えて貸借対照表には、企業の利益や損失を債権者と株主の間でどのように負うのかを明確にする役割を期待できます。株主と債権者は、共に貸借対照表の(貸方)に相当します。そして(借方)にあたる資産(企業の財産)の増減の影響を直接受けることになります。この際に、自己資本にあたる株主の取り分と他人資本である債権者の取り分をいかに調整するかを、貸借対照表にもとづいて検討することができます。

    

管理会計とは?

財務会計が外部のステークホルダーに対して自社の財務状況を説明するものであるのに対し、管理会計は、社内の従業員に自社の財務状況・収益計画を共有するために使われます。

経営陣は、管理会計の情報にもとづいて、経営に関する分析・施策決定を行い、従業員がそれら施策をスムーズに実行できるように情報をシェアしています。

実際に作成される資料としては、事業計画書や経営企画資料、部署ごとの予算案などが挙げられます。

管理会計は、社内の人間と財務状況を共有・分析し、いかに利益を伸ばせるのかを議論する土台となることが期待されていると言えます。

   

予算策定

予算は、企業が限られた資源をどのように使っていくのかを決めた指針です。具体的には生産能力や売上、費用に関する目安が設けられています。

また、事業部門や部署ごとに予算が割り振られ、一定額のお金を動かす責任と権限が与えられます。実はこのように責任と権限が与えられることから、予算は組織の責任構造を明らかにする役割も担っていると言えます。

予算を策定する上では、利益目標、損益分岐点などが重視されます。利益目標とは、事業計画の中で定めた売上予算から想定費用を引き算した利益の部分を指します。

また損益分岐点とは、売上高がコストを超えるポイントのことであり、このポイントを超えるとビジネスとして利益が発生し黒字になります。各営業部門は、この損益分岐点を超えることをまずは目指します。

   

予実管理

予実管理は、経営の指針となる予算が策定された後に、実際にそれぞれの部署の実績を把握しながら、予算に対する達成度合いを確認するプロセスを指します。

たとえば、決められた予算に対して、実績が大きく乖離している場合には、その差分を埋めるための施策を打ち、利益目標に到達することが目指されます。この「予算と実績の差分を明確にし、管理すること」が「予実管理」に当たります。

   

原価管理

現在管理会計には様々な手法が登場していますが、原価管理は管理会計において初期から導入されていた経営手法です。

特に製造業など、原材料を調達して、商品を製造しているビジネスモデルでは、原価管理が欠かせません。

原価管理では原材料費や労務費、経費といった製造コストをあらかじめ計算し、それらコストを適正水準内に抑えるために、サプライヤーマネジメント等を行う必要があります。

サプライヤーマネジメントでは、1つの費目に関わる複数のサプライヤーから相見積もりを取り、自社の条件や適正価格にあったサプライヤーと契約を結ぶことを目指します。

こうした価格交渉の過程で大事になるのが、適正価格を把握し、目標となる標準値を設定することです。

サプライヤとの価格交渉については、下記の記事も参考にしてください。

【完全版】価格交渉を有利に進める値下げのコツ。プロが実践する3つのステップとは? | Leaner Magazine|リーナーマガジン

    

管理会計の目的

管理会計は、組織が階層化している現代の企業には欠かせない経営手段となっています。

   

目的①:企業の財務管理機能を強化し、利益目標の達成に貢献する

多くの企業では、成長するに従い事業部門が増え、従業員規模も膨れ上がっていきます。その際、経営陣が設定した利益目標をしっかりと事業部ごとのKPIに落とし込み、それぞれの部署の従業員に目標として伝達していくために、管理会計は欠かせない経営管理手法となっています。

そして、「伝達した目標に対してそれぞれの事業部門はどれぐらいの達成度合いなのか」、また「その過程でどれくらいの費用をかけたのか」を監督することが管理会計では求められています。

また、企業全体の利益目標を従業員の個人目標に転換することで、社員のモチベーションを高める狙いも含んでいます。

   

目的②:アカウンタビリティを確保することで、ガバナンス機能を強化する

管理会計を通じて社員に会計情報を正しく共有することは、アカウンタビリティ(情報の透明性)を確保することにも繋がります。

会計情報の透明化によって,従業員は自身に課せられた営業目標が企業全体の経営戦略にどのように結びついているのかを理解することができます。

また経営陣側も、従業員に対して説得力のある形で指示を出せるため、組織全体の風通しが良くなり、従業員満足度や業績の向上に繋がることも期待できます。

   

終わりに

財務会計と管理会計は、経営管理に携わる人間にとっては必要不可欠な知識です。

外部のステークホルダーや潜在的な株主に対して会社の財務状況を共有するためには、財務会計が使われ、内部の人間に対して利益目標を共有・実行していく過程で管理会計が活かされています。

どちらも会計制度も長い歴史を経て、改善され、より企業の実務に適した制度に進化しています。またこれら財務会計と管理会計は、その基本となる財務状況の共有以外にも、利害関係の調整やガバナンス機能の強化にも役立てられています。

ぜひ、この記事が経営管理に関わる皆さまの参考になれば幸いです。

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