コスト削減に着手する前に知っておきたい、業種ごとのコスト構造

皆さんは、自社でどのコストが削減しやすいかを知っていますか?

企業によってコスト削減の余地が異なるのは当たり前のことですが、業種によってかかるコストや、削減のしやすい費用にも傾りがあります。

コストの中でも、特に「販売費及び一般管理費」(以下、販管費)に焦点を当て、運輸業・製造業・小売業・金融業・インターネット・情報通信業の代表的な企業を例に見ながら、どの費目に着目すると効果的なコスト削減が可能か、ご紹介します。

TEXT BY Leaner Magazine編集部

各業界でコスト削減を優先すべき費目をコスト構造の観点から紹介

業種によって、企業のコスト構造には一定の傾向があります。コストを見直す際、削減しやすいコストを見つけ出すために、このコスト構造に注目します。

特に今回は、「販売費及び一般管理費」(以下、販管費)に含まれる費目に着目します。販管費に注目する理由は、大きく2つあります。

1点目は、販管費はその大部分を占める間接費の特性上、売上に直接的な悪影響を与えるリスクが小さいためです。原価のコスト削減をする場合、製品の品質を落とす、もしくは数を減らすなどしてコスト削減することを考えることになりますが、これらの行為は売上の低下に繋がる可能性があります。プロダクトとは切り離された間接費を見直すことで、売上に影響を与えることなくコスト削減を遂行することができます。

2点目は、販管費は企業によってばらつきはありますが、規模が大きい費用であるためです。販管費の大部分を占める間接費は、製品製造に直接関係しないコストであるものの、多くの企業において売上の10-20%を占め、日本全体での流通総額は200兆円に及ぶと言われています。削減したときのインパクトは大きいと言えるでしょう。

今回は、この販管費の傾向と、優先的に取り組むべき費目について、具体的な例を交えて業界ごとに紹介します。

運輸業のコスト構造から見るコスト削減

まずは、ヤマトホールディングス株式会社と日本通運株式会社を例に、販管費の内訳を見ていきます。

ヤマトホールディングス株式会社の第154期有価証券報告書の損益報告書を見ると、「販売費及び一般管理費」の内訳のうち主な費目は以下のようになっています。

2018年度「販売費及び一般管理費の主要な費目および金額」(ヤマトホールディングス株式会社)

同じく、日本通運株式会社の第113期有価証券報告書の損益報告書によると「販売費および一般管理費」の内訳のうち主な費目は以下の表のようになっています。

2018年度「販売費及び一般管理費の主要な費目および金額」(日本通運株式会社)

以上の2社の数値を見てわかる通り、人件費が最も多く、広告宣伝費や支払手数料などが次に多いです。

このうち、特に運輸業に共通して割合の多い費目として、人件費の削減を紹介します。

人件費は削減の難易度が高い費用の1つですが、2つの打ち手があります。1つ目はBPR(業務改革)を行い、業務量を調整すること。無駄な業務を排除することで、一人一人が本業務に集中できるよう、見直しを行います。2つ目は要員計画を見直し、業務量を平準化することです。部署や時期によって異なる業務量をできるだけ社内全体で共有し、業務量の偏りを作らないことで、残業代などを抑制することができます。

詳しくは、こちらの記事をご覧ください。

製造業のコスト構造から見るコスト削減

製造業の例として、トヨタ自動車株式会社の販管費の内訳を見ていきましょう。

トヨタ自動車株式会社の2019年3月期有価証券報告書によると、「販売費及び一般管理費」のうち主な費目及び金額は以下のようになっています。

2019年3月期「販売費及び一般管理費のうち主要な費目及び金額」(トヨタ自動車株式会社)

製造業の特徴として、無償修理費と運賃諸掛が大きいことが挙げられます。

最も大きい「修理費」は、保証期間内の修理や取替、またはリコールに伴う修理等に対してかけた費用を指します。これらにかかった費用のうち金額が大きい項目を特定し、部品単価や修理にかかる人件費の削減を試みます。

運賃諸掛には、運送費や発送費、関税などが含まれます。特に運送費は、配送頻度や配送ルート、配送条件を確認した上で、運送単価を見直し運送会社に価格交渉するなどすると良いでしょう。

小売業のコスト構造から見るコスト削減

小売業の代表的な企業として、イオン株式会社と株式会社セブン&アイ・ホールディングスを例に販管費の内訳を見ていきます。

イオン株式会社の第95期有価証券報告書の損益報告書を見ると、「販売費及び一般管理費」の内訳は以下の表のようになっています。

2020年2月期「販売費及び一般管理費」(イオン株式会社)

同じく、株式会社セブン&アイ・ホールディングスの有価証券報告書の損益報告書を見ると、「販売費及び一般管理費」の内訳は以下の表のようになっています。

2020年2月期「販売費及び一般管理費」(株式会社セブン&アイ・ホールディングス)

小売業における特徴は、他の業界よりも比較的「賃料」の割合が高いことです。特に小売業における賃料は、倉庫利用料やテナント出店料にかかっているケースが多くみられ、最も削減が難しいコストの1つと言えるでしょう。

購入・契約の際には、賃貸条件を整理し、価格交渉に臨みましょう。

詳しくは以下の記事をご覧ください。

金融業のコスト構造から見るコスト削減

金融業の例として、株式会社大和証券グループ本社をあげ、販管費の内訳を見ていきます。

株式会社大和証券グループ本社の第83期有価証券報告書の損益計算書を見ると、「販売費及び一般管理費」の内訳は以下の表のようになっています。

2020年3月期「販売費・一般管理費」(株式会社大和証券グループ本社)

金融業界特有で割合の多い費目に取引関係費があります。取引関係費に含まれる費用に、支払手数料や取引所・協会費、通信・運送費、広告宣伝費などがあります。

そのなかでも、支払手数料について紹介します。支払手数料には、銀行振込手数料や証券代行手数料、クレジットカード手数料などの種類があります。

どの支払手数料も現行の条件を種類に応じて整理した上で、複数業者に相見積もりをとり価格交渉に臨むと良いでしょう。

その際、銀行振込手数料や証券代行手数料は単価ごと、クレジットカード手数料は利用金額や料率ごとに条件を整理するのがポイントです。

特にクレジットカード手数料について詳しくは以下の記事をご覧ください。

インターネット・情報通信業界のコスト構造から見るコスト削減

インターネット・情報通信業界の代表的な企業として、楽天株式会社とKDDI株式会社を例に販管費の内訳を見ていきます。

楽天株式会社の2019年第23期有価証券報告書の損益報告書を見ると、「販売費及び一般管理費」の内訳は以下の表のようになっています。

2019年度「販売費及び一般管理費のうち主要な費目」(楽天株式会社)

同じく、KDDI株式会社の2019年3月期第35期有価証券報告書によると、「販売費及び一般管理費」の内訳は以下の表のようになっています。

2019年3月期「販売費及び一般管理費を構成している費目の性質別の内訳」(KDDI株式会社)

以上のように、IT企業に共通する特徴として、「外注費」や「手数料」が多くかかっていることが挙げられます。

外注費削減の打ち手としては、価格交渉があります。まず、現在の依頼業務内容、工数、単価などの条件を整理し、可視化します。その後、複数の業者に相見積もりを取り、比較したり、原価積算などを活用し、適正価格を予測した上で価格交渉に臨むと良いでしょう。

またIT企業の特徴として、他の業界の企業よりも、そもそも販管費の売上高に対する割合が大きく、売上原価の割合が小さいことが挙げられます。販管費に含まれる費目は売上原価に当たるものよりもコスト削減しやすいものが多く、IT企業は相対的にコスト削減による成果を出しやすい業種と言えるでしょう。

IT企業のコスト削減については以下の記事にまとめて取り上げているので是非ご覧ください。

業界の特徴に合わせてコスト削減を検討してみよう

業界によって、コスト構造やコスト削減しやすい費目に違いがあることを紹介してきました。

自社が属する業界の傾向を踏まえ、取り組むべき費目をもう一度精査してみてはいかがでしょうか。

本記事が皆さんのコスト削減の一助となれば幸いです。