2020.04.08
【前編】今、海外で熱い「コスト削減×SaaS」。投資家、菊川航希氏が語るコスト削減の未来とは

新卒で戦略コンサルティングファームに入社後、日本・シリコンバレーを中心に複数の事業サポートに携わり、現在は「OYO LIFE」の事業開発責任者を務める菊川航希氏。
その菊川氏が注目している領域の1つが「コスト削減×SaaS」。
今回は、これまで様々な事業に関わってき同氏が「コスト削減×SaaS」に注目する理由を伺いました。
TEXT BY Leaner Magazine編集部
欧米と日本、全く異なるコスト削減の意識
ー菊川さんは、コンサル時代にコスト削減に携わった経験があると伺っています。どのようなプロジェクトに携わっていたのでしょうか?
菊川:様々なプロジェクトに携わってきましたが、具体的な業務内容として、調達プロセスの最適化や、営業・マーケティング費用の削減などを経験しています。
クライアント企業も多岐に渡っており、グローバル展開している日系企業、ドメスティックな日系企業、グローバル企業の日本支社などの案件に携わりました。
ー様々なプロジェクトに携わってきた中で、欧米と日本の企業で何か違いはありましたか?
菊川:欧米と日本企業の差は、「調達組織の構造」に顕著に現れていると感じています。
欧米ではローカルな企業も含め、ほとんどの企業で、調達部門が設置されています。CPO(Chief Procurement Officer)と呼ばれる調達担当の役員が設置されている企業も多数存在します。
他方、日本企業を見ると、CPOは疎か、調達部門すら設置されていない企業が大半です。
実際、私がサポートしていた欧米の企業では「いかに安く調達できるか」について、専門部署が、四六時中検討していました。調達組織そのものが存在しない日本企業との差は歴然だと思います。
ーなぜ、そのような差が生まれているのでしょうか?

菊川:欧米と日本では「企業経営に対する考え方」が根本的に異なります。
日本企業は、「売上ベース」の会社が多く、営業・マーケティングを重視する傾向がある。一方、グローバルの企業は「利益・キャッシュフローベース」の会社が多く、調達の最適化も重視している傾向があります。
典型的な例がコカ・コーラなどの飲料メーカーです。
彼らは、類似した商品をグローバルで展開する中で、営業・マーケ面について熟考するのはもちろんのこと、同時に“いかに調達コストを抑え、安価に提供していくか”を考え、それだけでコンサルに調達プロジェクトを発注したりしています。他方、日本の飲料メーカーをみると、ブランド・知覚品質・パッケージなどの面での差別化をより重視しており、”いかによい製品を作り、売るか”にフォーカスして投資を行っている企業が多いと感じます。
一例ではありますが、こういった企業経営に対する考え方の違いが、コスト削減意識の差に繋がっているのではないでしょうか。
いま世界では「コスト削減のSaaS化」が大きなトレンドになっている
ー欧米では、「コスト削減×SaaS」がトレンドになっていると伺いました。

菊川:おっしゃる通りです。グローバルでは、コスト削減や調達活動をソフトウェアを用いて行うことが一般化しつつあります。
例えば、コスト削減を行う際に必要な、支出の可視化。ERPのデータを加工・集計する過程に、SaaSを用いることで、効率的かつタイムリーに実現できるようになります。こういったことを可能にするサービスが、英語圏では数多く存在します。
調達・コスト削減に特化したSaaSの代表例として、SAP グループの「SAP Ariba」があります。他にも、「Coupa」や「Sievo」など、様々なプレイヤーが誕生しています。
ー欧米では一大トレンドになっているのですね。
菊川:「Coupa」は時価総額1兆円を超えていますし(2020年2月時点)、「Scout RFP」がWorkdayに買収されるなど、マーケットからの注目も増してきています。
このような状況もあり、欧米企業の調達部門の人たちにとって、SaaSを用いてコスト削減に取り組むことは、もはやポピュラーな選択肢と言っていいでしょう。
「コスト削減のSaaS化」は日本の次なるトレンドとなる
ー「コスト削減×SaaS」は日本でもトレンドになるでしょうか?
菊川:間違いないと思います。利益を創出するには”売上を上げるか、コストを下げるか”の2つの選択肢しか存在しません。そういった意味で、コスト削減はすべての企業に共通する懸案事項です。したがって、コスト削減したいというニーズは、ほとんどの企業の経営陣が持っていると言えるのではないでしょうか。
日本でもSaaSが流行し、色々な分野でサービスが誕生していますが、コスト削減に特化したSaaSは、まだほとんどありません。コスト削減領域においても、SaaSの導入・活用は今後のトレンドになってくると思います。
ーたしかに、国内でもニーズはありそうです。今海外で起きているトレンドは、いつ頃日本で広まるでしょうか?
菊川:「タイムマシン経営」という言葉があるように、海外で流行った後に、同様のビジネスモデルあるいはサービスが国内でトレンドになることはよくあります。最近でも、アメリカでトレンドになった商品・サービスが日本で流行するまで、5~10年ほどの時間差があると感じています。
「コスト削減×SaaS」は、まさにその移行期間が当てはまると思っています。まだ日本国内では、コスト削減に対する市場の理解は高くなく、注目されていない。
ただし、今後コスト削減への意識が高まるにつれて、日本でも複数の「コスト削減×SaaS」が出てくる、と思っています。
ー新型コロナウイルスへの対応など、景気の先行きが見えない状況が続いています。直近のマーケット・環境の変化について、どのようにお考えでしょうか?
菊川:マーケットの不確実性が高まり、トップラインにも影響が出てくる中で、企業の経営にも大きな影響が出ると思っています。
具体的には、これまでの「売上ベース」の経営から、「利益・キャッシュフローベース」の経営へとシフトせざるを得ないでしょう。”コスト削減”が、一部門のテーマから、CEO・CFOのアジェンダへと昇華される企業も多くなるはずです。
そういう意味では、「コスト削減×SaaS」の立ち上がり時期も、早まるかもしれませんね。
また、この傾向自体は、長期的に見れば企業経営に良い影響をもたらす可能性もあると思っています。欧米式の経営が必ずしも正しいとは思いませんが、着実に利益を生み出し、投資へ回していくことは、これからの日本企業に求められる姿勢ではないでしょうか。
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